遅ればせながら、長かった今年の年末年始で読んだ本のことを少しずつ紹介してみようと思います。
「ウェブ進化論」の著者梅田望夫氏と、当時史上最年少で芥川賞を獲得した作家平野啓一郎氏の対談による「ウェブの存在は人間の進化にどういう影響を及ぼすのか」という内容の本。テーマ的には、ネット上では様々な形で語られてきた/ているものではありますが、職業作家の人がこういうテーマをどう捉えているのかに非常に興味がありました。
平野氏が芥川賞受賞作品である処女作「日蝕」を執筆したのが1996年で、この作品執筆時はネットはまったく活用していなかった。その後ドラクロアとショパンの交流を軸に芸術の時代を描いた「葬送」などの大作を書き上げる過程においては、文献調査など書籍や論文などを書く際において最も時間がかかるであろうプロセスで、ネットをフル活用したことでそれまででは考えられなかったスピードで本を書き上げることができたと振り返っている。もはや当然のことなのかもしれないが、「ああ、やっぱり作家の世界でもネットの恩恵は大きいのだな」と改めて感動した。さすがにネットで作品を発表したり読まれたりすることにはとても消極的な様子が伺えたが、実際に創作活動においてどっぷりとネットを活用しているという現状を考えると、いわゆる紙をベースにして創作をしている既存の作家達の世界と携帯で小説を書いているような高校生たちの世界とがオーバーラップしていく可能性というのもこれからきっとあるのであろう。
平野氏が言うところの「リンクされた脳」、「個人というのは、輪郭の内側に閉ざされていて、知識や思考もその中に密閉された材料や過程なんだという考え方が、ある意味では終焉しつつあるのかもしれません」というは、私自身も最近さらに強く実感します。最近の大学生がFacebookを使って驚異的なスピードで目の前にある課題を解決するというエピソードなんかは、教育現場にいる人なんかも真摯に捕らえなければいけない流れなんでしょうね。
平野氏が最後のまとめに書いているように、
「結局、身体性からの切り離されたところで、あらゆる人間が活発に活動することになったといのが、ウェブ登場による一番の変化なんだと思います(中略)人間の変容という観点に絞ってみれば、やっぱり多くの人が自分で自分を言語化していくようになった、というのが圧倒的に大きいでしょうね。その中で、自分が今までよりも良く分かったり、逆に自分を錯覚してしまったり、固定化してしまったりする」
という流れは事実として受け止めて、
「テクノロジーの進歩は人間の本質を変えることはできない、人の「心」は変わらないんだ、という考えを表明する人が、特に保守的な思想の持ち主に見受けられますが、やっぱり変わるでしょう。どう考えても、狩猟時代の人間と今の人間の精神構造がまったく同じだとは考えられない。テクノロジーが発展すれば人間の生活の条件は大いに変わるし、人間自体も劇的に変容するでしょうね。」
ということを改めて考えなければならないということなのだと思います。
こうしたことは、収益やコンプライアンスということとはまったく別の軸で、新しいサービスやライフスタイルを提案する仕事をする上では考えなければいけないテーマなのだと思います。
ウェブ人間論 (新書)
梅田 望夫 (著), 平野 啓一郎 (著)